大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)431号 判決

上告人

平沢長四郎

代理人

石川克二郎

外一名

被上告人

本正信蔵

代理人

榊原孝

主文

原判決を破棄し、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人石川克二郎の上告理由について。

原審は、本件代物弁済予約は、上告人の被上告人に対する金銭債権を担保するために、抵当権設定契約と並んで締結されたものであり、債権者たる上告人は、目的不動産を換価処分し、これによつて得た金員から優先弁済を受け、債務者との間の貸借を清算することを内容とする債権担保契約である旨、および、本件不動産には訴外高橋喬のため後順位の抵当権が設定されており、同人の申立により、右物件には競売手続が進行中である旨の事実を認定したうえ、かかる代物弁済予約契約においては、債権者は、目的物件の換価処分を前提とした場合にかぎつて、目的不動産の仮登記を本登記に高める登記手続を求めることが許されるが、後順位抵当権者が既に目的物件について抵当権を実行し、競売手続が進行しているときは、右予約権者は、一番抵当権者として競落代金から優先弁済を受けて債権の満足を図るべきであつて、もはや目的不動産の換価処分の必要は認められないから、仮登記を本登記に高める必要もなく、したがつて、仮登記に基づき本登記手続を求める上告人の本訴請求は許されない旨判示している。

しかしながら、右の判示に副うような主張は、原判決の事株摘示欄に記載されていないのみならず、記録によれば、原審において、当事者双方の主張するところは、本件代物弁済予約が本来の意味における代物弁済予約であることを前提とするものと思われないわけでなく、要するに、前記認定の如き事実関係を、当事者において主張していたか否かは、結局、明らかではないのである。もつとも、後順位抵当権が実行されたとの事株については、上告人提出の準備書面(記録七五〇丁)においてふれるところがないわけではないが、その前後の記載に徴すると、右の点が原判示の如き意味あいにおいて主張されたものとは必ずしもいい難い。およそ、抵当権実行の存否は原判決の結論を左右する重要な事実であるが、それにもかかわらず、事柄自体極めて浮動的であつて、その後の弁済、当事者間の和解などによつて競売申立が取り下げられ、あるいは他の事情により競売開始決定の取り消されることも往々にしてありうることなのである。したがつて、単に、原審のある一時点において目的不動産につき後順位抵当権の株行手続が進行中であつたからといつて、直ちに、これを前提として、本件代物弁済予約権者の権利行使の許否を断ずることは軽率のそしりを免れないものというべきであり、かような点については、当事者に適用さるべき法律関係に適合した事実関係を充分認識させ、必要な事実に関する主張、立証を尽させたうえでこれを判断するのが相当である。

しかるに、記録によれば、原審がこの点について思いをいたした形跡は認められないから、原審は、右の点について釈明権の行使を誤り、ひいて審理不尽の違法を犯したものというべく、この違法は、原判決の結論に影響すること明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件においては、なお右の点について審理をする必要があるから本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条を適用し、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(色川幸太郎 村上朝一 岡原昌男 小川信雄)

上告代理人の上告理由

原判決は、判決理由五の後段において「……換価処分を前提とした場合には目的不動産の仮登記を本登記に高める登記手続請求は許されるけれども、然らざる場合には許されないものと解すべきである。今これを本件についてみるのに、成立に争いのない甲第二三号証に照らすと、本件不動産は後順位抵当権者訴外高橋喬の任意競売申立により昭和四三年八月二六日訴外細川重三郎が金二、〇九八、〇〇〇円の価格をもつて競落し、執行裁判所が同月二九日競落許可決定したことが認められるので、被控訴人は一番抵当権者として競落代金から優先弁済を受けて債権の満足を図るべきであり、もはや被控訴人において本件不動産を換価処分するの要なく」として被控訴人の請求を棄却した。

然し乍ら、甲第二三号証の立証趣旨は、本件不動産の価格が鑑定価格より低廉であることを立証するために提出されたものであり、立証趣旨は甲第二一号証・甲第二二号証と同じである。

被控訴人は、甲第二三号証により本件不動産の競売手続が競落許可せられ、配当手続まで進行したことを主張又は立証したものではない。

然るに、原審はこの点につき何等釈明権を行使することなく、被控訴人の主張せざる事実を認定して原判決の如く判断した。

ところが、前記競売手続は執行裁判所の競落許可決定に対し控訴人から即時抗告の申立がなされ(仙台高等裁判所昭和四三年(ラ)第六一号)仙台高等裁判所第三民事部は昭和四三年一一月二七日「原決定を取消す。本件競落はこれを許さない」との決定をなし、右決定は確定し、訴外高橋喬のなしたる競売手続は解消するに至つた。従つて競落代金より優先弁済を受けることは不可能となつた。

かかる場合原判決の理由によれば、被控訴人が換価処分のためにする仮登記を本登記に高める登記手続請求は当然認容さるべきものである。

然るに、原審が競売手続の進行状況、特に競落許可決定が確定し、配当手続まで進行しているかどうかにつき釈明することなく、前記の如く認定したのは、著しい釈明権の不行使当事者の主張もない事実の採用といわなければならない。

原判決は著しい釈明権の不行使、当事者の主張せざる事実の認定等の民訴三九四条所定の法令違背があり、その過誤が判決に影響を及ぼすことが明かであるので、原判決の破棄を求める。           以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例